20211206
琉球國中山王世孫尚益が、祖父薨逝したれば国政を權攝する事の爲にす。竊照に、幣国は雖越、海外に在りては、能く生民を治め世に藩職を修め、皆な天朝を荷い福澤は遠庇すること益に及ぶ。祖父尚貞の襲封は恩を叨みだりにす。(並々ならぬ恩をうける)。左渥なり。方に期すこと長きににて、海表の藩鎮となること、子及び孫に傳へたり。此れを料に、益が父世子尚純は蹇して、永年ならず。康熙肆伍年拾貮月春拾日に於いて、疾を以て先に卒す。益は代父り問視すること、敢えて少しも懈ら不をと雖ども、而も祖父終に、益父を以て親に事ことは能く孝し、通悼すること不已、悲傷を過於通り越して漸く虚を成し、一を怯れ、且つ臥痾す。遂に本年柒月拾参日(註21)に至り、薨逝し、臨終せり呼。益、榻前にて、命之の日に至る。吾は封嗣となるを請ひたるも、業經に今三十載暦になりて、聖朝の眷顧を蒙ること、有加無已になりて、天は高くして地は厚くなりたるが、浩蕩して名すること難し。今病勢は、沈篤なり。料此に生きて能く報答無ければ、汝心は恭順ひて以て心は吾心を継げかし。惟に、汝父の父の早く亡くなりしを未だ封典に應ず、入廟を不得なり。恐らく祖を以て禰爲さば、如物議何。汝宜しく之れ言を思うべし。(との祖父尚貞の言葉が)、訖りり而、殂しても、一語も私に及ぶこと無し。益既に父を傷む。之れ亡と云へり。復た祖父之棄世を痛む。五内が分裂れば、敢えて言継業惟だ是れ国事にして、衆心を統べる無ければ、恐らくは定めんや。益、若し私を以て公を廃すれば、恐らくは負らんや。朝廷封藩之重きは、於喪し次に国政を權聽し、敢えて王と稱せ不を除くの外、特に正議大夫蔡灼を遣わし貴司於訃報すべし。所有の祖父の遺言も亦た敢えて壅滞らせざるなり。伏して貴司に乞ふらくは、督部両院に轉詳し、題せられたし。此れが爲に、理として貴司に移咨す。請爲くは査照施行(註53)らはれたし。須らく咨する者に至べし。
右は福建等處承宣布政司に咨す。
康熙肆拾捌年十一月 日
註1-權攝 かりにに他の者をして官をかねしむること。
攝-代理する
註2-竊照 竊-人知れずに、ひそかに
照ーかんがふるに
竊照ーひそかにかんがえるに
註3-雖 たとい(仮令)父雖没は、父が死なれても➀
越ー失う⓶
(父)雖越ーー(仮令)父雖越は、父が死なれても、➀⓶からと考える。
註4-海外 四海の外、すなわち外国。つまり海外=外国=琉球國となると考える。
註5-藩職
藩=諸侯の國
職=仕事
註6-荷 有り難い かたじけない
人より受けたる恩をありがたく感ずる。
荷天朝 天朝をありがたくおもう
註7-福 さいわい しあわせ
澤 うるおい めぐみ
福澤-- 幸いと恵み
註8-遠ーー あまねし ひろし おくぶかい
庇ーー 庇護 おほう かばう
遠庇ーー 奥深く庇護する
註9ー襲封ーー諸侯が領地を受け継ぐ
註10ー叨恩 恩をみだりにす
並々ならず恵みをうける
註11ー左渥 左=証拠
渥 あつし 光沢あ うるおい
左渥ーうるおいがある証拠(agijimaの考察の結果)
註12ー期 1年間の喪に服すすること。
註13ー海表 海外の土地。ここでは琉球をさす。(agijimaの考察)
註14ー藩鎮
藩=一地方の長となりて守備按按撫に任ぜらるもの。
鎮=諸侯の國
註15ー料此
料ー 考える 考えはかる
註16①ー蹇 困窮する。ゆきなやむ。びっこする。あしなえ【足萎え・蹇】足がきかなくて歩行が不自由なこと。また、その人。
註16⓶ー永年 とこしえの年=長生き
年=年
註16③ー康熙肆伍年拾貮月春拾日 尚純王 (康熙) 四十五年丙戌十二月三十日薨。葬于于玉陵。『中山世譜 蔡鐸本』
註17ー代父 父の代わりとして
註18ー問視 言う事や世話する事
問=言う。述べる。告げる。
視=伺う。もてなす。 世話をする。
註19ー通悼 痛み悲しむ)
註20ー痾 ながびく病。(agijimaの考察)
註21ー康熙48年柒月拾参日(agijimaの考察)
(尚貞王:康熙)四十八年己丑七月十三日薨
葬于玉陵在位四十一年。壽六十五。『中山世譜 蔡鐸本』
註22ー薨逝 死亡する(agijimaの考察)
薨=みまかる。貴人の死亡の事
逝ーー死亡する
註23ー呼 憊て發する聲。
註24ー榻 ゆか・腰かけ・寝台
狭く長くして低い牀(臥牀)
註25ー命之 此れを申し付けられる
註26ー吾 尚貞
註27ー封嗣 琉球國中山に封ぜられた世継。
封侯=諸侯に封する。封せられし諸侯
嗣=よつぎ。相続人
註28ー業經 すでに
業=すでに(已然)もはや為し了へたる意を表す。
經=かって いままで
註29ー聖朝
聖=天子の敬称。
朝=役所。我が君主の治下。
註30ー眷顧 なさけをかけかへりみる。
註31-有加無已 とどまることなくますます度が加わること
註32ー浩蕩ー水が広く流れるさま
註33ー名 命令する
註34ー沈篤 久しき病はなはだし
沈=沈疴=久しき病
篤=病はなはだし
註35ー料此 此れを考えるに
料=考える。かんがえるはかる。
此=これを
註36ー報答 むくゆること。人の恵に報ゆ。
註37ー汝 ここでは尚益を指す(agijima考察)
註38ー恭順 うやうやしくしたがう
註39ー吾心 私尚貞の心(agijimaの考察)
註40ー汝父 汝はここでは尚益。父は尚益の父=尚純のこと
註41ー封典 領地を与えて諸侯とするの規則決まり
封=領地を与えて諸侯とする
典=規則決まり
註42ー應 答え
註43ー入廟 おたまや、祖先のみ霊をまつる殿堂にはいる
入=はいる
廟=おたまや、祖先のみ霊をまつる殿堂
註44ー禰廟にまつる父の稱
註45ー如物議何 物議ご如きは何いかにしようか →どうしようか世間の噂を(agijimaの考察)
如ーー何= どうしよう いかに
物議=世間の噂
註46ー汝 此処では尚益
註47-言 いう心・そういゆわけ
註48-言継業 先人の業を継ぐことの言うこころは(agijima考察)
言= いう心・そういゆわけ
継業=先人の業を継ぐ
註49ー負 そむく
註50-封藩 領地を与えられ諸侯(agijima考察)
封=諸侯の領地。領地を与えて諸侯とする。
藩=一地方の長となりて守備按按撫に任ぜらるもの。
藩=諸侯の國
註51ー喪 も。期服=人の死を悲しみてある一定の期間凶服をつけてうれいにこもる。
註52ー權聽 公平に聞き入れて
權=たいらかに
聽=聞き入れる。ゆるす。
准
註53 査照施行 承知して取りはかる(agijima考察)
査照 承知する(『無用之用』
施行 とりはからう(『無用之用』
『旧琉球藩評定所書類 書簡和觧-752』